海洋生物トキシンの構造、分析法、化学合成などの研究は、総合として農芸化学分野の重要課題の一つである。具体的にはオカダ酸とテトロドトキシンを選び、その食品衛生学的見地からの要求に応じられる基礎的研究をすすめた。オカダ酸は下痢性見毒としても同定されているが、最近発癌プロモ-タ-活性があること、それが脱リン酸化の疎害と関連することがわかってきている。本研究ではすでに完了しているオカダ酸の化学合成の際の中間体から誘導できるオカダ酸類緑体を合成し、その生物活性を検討した。まず見毒としてオカダ酸に対する抗体への結合実験では、この類緑体(東部分)は約8倍も強く結合することがわかった。同じ化合物をタンパク脱リン酸化酵素を用いた阻害実験では、オカダ酸と比較して1/100以下の活性を全く示さないという結果を共同研究者から得た。これらのことは、オカダ酸分子の識別部位が全く異るいう興味深い結果で、複雑な構造のすべてが同時に重要ではなく、部位構造でも研究を推進できることを意味している。 光学活性テトロドトキシンの化学合成研究では、環状グアニジンを含む部分の合成に成功した。シクロヘキサン部分の合成はすでに完了しているが、両部分あわせてトキシン全分子を合成することが最後の課題として残っている。これに対し、不安定なブロモケトン中間体を安定なビニルホスフェイ-トとすることにより、次の段階へ進行することができた。シクロヘキサン部分に残された炭素鎖導入法については、Knoeveーnagel 反応を採用することにより別ル-トを拓いた。これは最近発見されたテトロドトキシン類似天然物が微量のため構造決定が困難である状況には朗報であり、それらの全合成を含め完成まであと僅かとなった。
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