各々の生産機能を持つ成熟血液細胞(赤血球など)は一定の寿命があるので、生体は成熟細胞を補給し続けねばならない。この補給は未分化な幹細胞の分化増殖により達成される。赤血球の分化増殖過程には、この過程を促進するエリスロポエチン(EP)と呼ばれる糖蛋白質が必要であり、赤血球の形成速度は血中EPレベルにより支配される。EPは腎で生産され、血中EPレベルを支配する第一の環境要因は酸素供給量である。他方、動物に無蛋白食を与えると赤血球量が減少することは古くから知られた事実であるが、申請者らはこの赤血球の減少は血中EPレベルの低下によること、さらに無蛋白食に切り替えるとEPの生合成が直ちに停止することを証明した。すなわち食餌蛋白質はEPレベルを支配する第二の環境要因であり、蛋白質を摂取するか否かにより速やかに血中レベルが変化する未知の物質が存在し、これが腎におけるEP生産を制御することを示した。本研究はこの未知物質を精製単離し、その構造を決定することを目的としている。 この目的のために、腎細胞を培養しEPの生産を観察しうる系を確立する必要がある。そのためには微量のEPを正確にかつ迅速に定量する方法を開発せねばならぬ。ヒトEPに対して異なるエピト-プを認識する二つのモノクロ-ナル抗体を利用した酵素免疫法を開発し、非常に微量のEPを定量することが出来るようになった。他方、ラットの腎細胞よりEP生産細胞を濃縮することを試みている。このさいEP生産細胞を同定するためには、細胞抽出液中のEPを測定する必要があり、先に述べた酵素免疫法が威力を発揮している。
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