電子吸引性の不斉リガンドを用いるという新しい概念に基づき、C_2対称なジスルホンアミド配位子を利用する触媒的不斉反応の開発を行ってきた。昨年度より継続して検討しているシアノヒドリン形成反応については、60%程度の不斉収率を一応達成することができた。しかし、中心金属、リガンドなど反応系の設定がまだ不十分で、今後の課題として残されている。 本年度は、従来ほとんど検討されていなかった不斉シクロプロパン化反応について集中的に検討した。不斉シクロプロパン化反応としては、ジアゾ化合物ー銅錯体を用いる方法は古くより知られているが、調製、安定性の面で利点のあるカルベノイドを用いる触媒的なプロセスの開発はほとんどなされていない。われわれはカルベノイドの調製法として均一系のジエチル亜鉛ージヨ-ドメタンに着目し、不斉ジスルホオアミドとの複合系を設計した。ジエチル亜鉛ージヨ-ドメタン系は酸素官能基を持つ化合物のシクロプロパン化において反応の加速効果が知られ、ジアステレオ選択的な反応は既に報告されているが、エナンチオ選択的な反応は全く知られていない。 特に、アリルアルコ-ル系の化合物について検討した結果、シンナミルアルコ-ルの場合、0.12当量のスルホンアミドの存在下、2当量のジエチル亜鉛、3当量のジヨ-ドメタンを作用させると、82%の収率、76%の不斉収率でシクロプロパン化体が得られることを見い出した。これはカルベノイドを用いる触媒的不斉シクロプロパン化の最初の例である。その他、シス型のオレフィンを含む種々のアリルアルコ-ルについても同様に良い収率、不斉収率でシクロプロパン化反応が進行することを明らかにした。シクロプロパン化の立体化学は、水酸基によってコントロ-ルされていることが明かとなった。さらに、基質をアリルアルコ-ルのメチルエ-テルとすると、シクロプロパン化は進行するが、不斉収率はほとんど0%で、フリ-の水酸基が重要な役割を果たしていることがわかった。今年度の成果は、電子吸引性の光学活性配位子を用いるという触媒的不斉合成の新しい概念がアルデヒドのアルキル化、シアノヒドリン形成反応に加え、シクロプロパン化にも適用できることを示し、不済ジスルホンアミド配位子の新しい局面を開拓するものと位置づけられる。
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