研究概要 |
酵素阻害剤の設計を目指して我々は、その構造がよく調べられている放線菌由来のプロテア-ゼ・インヒビタ-SSI(<Streptomyces>___ー Subtilisin Inhibitor)を遺伝子工学的に改変し、活性の変化を調べている。前年度では反応部位の中心(PI部位)Met73を改変することにより、新しくトリプシン、キモトリプシンを阻害することができたことについて報告したが、今年度はMet73を他の19種類のアミノ酸に変換し基質特異性の広いプロテア-ゼであるズブチリシンに対する阻害活性の変化を調べた。その結果、Lys,Arg(塩基性)、Tyr,Phe,Trp,His(芳香族)、Ser,Thr,Gln,Asn(極性)、Ala,Leu(脂肪族)をP1部位にもつSSIは野生型同様、強い阻害活性を示したが、ズブチリシンの基質特異性から外れるGlu,Asp(酸性)、Val,Ile(β分岐の脂肪族)やGly,ProをP1部位にもつSSIは阻害活性が低下した。すなわちズブチリシンの場合でも、プロテア-ゼの基質特異性とインヒビタ-の阻害活性の間には高い相関関係があることが示された。またLys変異体とズブチリシンの複合体は結晶化に成功し、構造解析を始める予定である。また、P1部位がGlyであるSSIのP4部位(Met70)をPheに変換することによりズブチリシンに対する阻害活性が上昇するという、トリプシンの場合と反対の挙動を示したが、これは両プロテア-ゼの基質結合部位の差に基づくと考えられた。一方、基質類似構造をもつプロテア-ゼ・インヒビタ-がプロテア-ゼにより分解されない理由を探るために、反応部位近傍に存在するジスルフィド結合を遺伝子工学的に取り除いた。その結果、この変異体はズブチリシンとのインキュベ-ション時間の経過と共に阻害活性が低下していくという現象(一時阻害)が観察され、SSIがプロテア-ゼ・インヒビタ-として機能するためには反応部位近傍がジスルフィド結合などにより固い構造をとることが必要であることが示された。
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