今年度は分布の北限線に近いシラカシの遷移の問題を微気象環境と、それに対応したシラカシの光合成特性に基礎をおいた成長を調べて、研究課題に取り組んだ。 まず、野外ではアカマツ林の林床の微気象環境とアカマツ林内に自生しているシラカシ稚樹の光合成特性の季節変化を携帯型光合成ポロメ-タで詳しく測定した。さらにシラカシの個葉の光合成特性を各種環境条件(光強度、温度、二酸化炭素濃度)を制御した実験室内でも計り、これらの情報から、分布の北限線に近いシラカシ自生地に近い筑波におけるアカマツ林からシラカシ林への遷移過程の一端を考察した。 得られた主な結果は以下の通りである。 1)アカマツは常緑針葉樹であるが、その林床の光環境は12月の0.4から4月の3mol m^<-2>d^<-1>PPFDの間の季節変化を示した。この変化は対照区(100%光区)PPFDの季節変化と、林冠木、中下層木の葉の茂りかたの季節変化とを反映したものだった。 2)シラカシ稚樹の光合成速度は林床の光環境と温度環境とを強く反映したものとなった。すなわち光合成は4月に最大で60mmol CO_2m^<-2>d^<-1>を超えたが、夏にはほとんどOとなり、秋はやや回復した。これは春と秋には気温が光合成の最適温度に近かったのに対し、夏では林床が暗い上に気温が最適温度を著しく超えていたためであった。 3)以上のような実測値から、このシラカシ稚樹がアカマツ林床下で生存し、さらに大きく成長していくことはかなり困難なことが予測された。これが放置されたアカマツ林から極相林であるシラカシ林への遷移が、実際になかなか認められない大きな原因であると思われた。
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