森林生態系に対する地球温暖化の影響を予測するために、照葉樹林を対象として森林生態系モデルを作り、今問題の地球環境変化が照葉樹林にどのような影響を及ぼすかを炭素動態の面から予測した。 ここで開発したモデルに、熊本県水俣の照葉樹林で得られた各種実測値を与えて、森林の成長を計算した。葉の光合成速度、植物体各器官の呼吸速度や土壌有機物の分解速度といった生理的値と、毎月の日射量、気温などの気象デ-タとを与え、毎月の生産量や呼吸量、植物量などを順次計算していくと、植物量も炭素の流れも200年以内に定常状態に達した。しかもこの森林の植物量や炭素の流れは、実測値とかなりよく合った。 続いて、地球温暖化を想定して、このモデルの環境パラメ-タの一つである気温上昇に対するこの森林生態系モデルの応答を調べた。気温が5℃上昇したときの応答は、総生産Pgは基準状態と比べて、9%ほどしか低下しないのに対して、植物量や純生産Phは30%前後も低下するものと予測された。 次に気温上昇とCO_2濃度増加が同時に起きたときの森林生態系への影響を予測した。つまり、気温が5℃上昇するとともに、CO_2濃度が現在の濃度のほぼ倍、600ppmになったものとして計算すると、現状と比べてPgは36%も上昇し、植物量とPnは現状のレベルに回復するものと予測された。 これらの結果を元に、現在の照葉樹林の分布の限界線と、将来の環境変化に対する応答を考察した。
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