平成元年度から平成3年度の3年間にわたる一般研究(B)の「植物分布の北限線と南限線の生理生態学的解析」を行ない、最終年度は研究の締括りとして、主にこれまでに得たデ-タの取りまとめを行ない、成果報告書(p54)を作成した。 今回出来上った成果報告書の内容は、1)分布北限域におけるシラカシ実生の光合成の季節変化特性と、2)北方種と南方種の光合成とバイオマスの季節変化に大別される。 1)分布北限域におけるシラカシ実生の光合成の季節変化特性は、北関東を分布の北限域とするシラカシ実生が、筑波地域のアカマツ人工林内に数多く芽生えているが、このシラカシ実生の光合成特性を変動の大きなアカマツ林内で光合成ポロメ-タを用いて、季節別に測るとともに、光強度、温度、二酸化炭素濃度を制御した実験室内でも測って、その特性を調べた。この測定で、アカマツ林内のシラカシ実生は、春に最も大きな光合成生産をあげ、逆に夏には光合成生産は負になり、秋に再び回復して、春に次ぐ正の光合成生産を行なっており、冬にまた負の生産に転じていた。このようなシラカシ実生の光合成生産の季節変化は、野外環境に大きく制約されたものであった。すなわち、春と秋には林内が比較的明るく気温が最適温度近くにあるため、シラカシはかなり大きな生産をあげたが、夏になると上層木の葉が展開して林内が暗くなるとともに、気温が上昇して呼吸が活発になるため、また、冬には温度が低過ぎて、いずれも負の生産になっていた。このような実験結果から、アカマツ林からシラカシ林への遷移は、北関東地域では容易には起こり得ないことが明かとなった。 2)北方種と南方種の光合成とバイオマスの季節変化は、同じイネ科に属する北方種のハマニンニクと南方種のケカモノハシの光合成とバイオマスの季節変化を茨城県の角折海岸で測った結果、ケカモノハシの光合成最適温度は、ハマニンニクよりも高温側にあることなどが分かった。
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