植物細胞の凍結傷害は細胞の凍結脱水による細胞膜の構造と機能の損傷による事がこれまでの研究で明らかになっている。細胞が耐凍性を増大させるとき細胞膜の蛋白質組成が変化することが数種の植物で明らかになっている。しかし、耐凍性に密接に関連して減少或は増加する膜蛋白質はまだ同定されていない。今年度は耐凍性の異なる春まき(Chinese spring)と秋まき(Norstar)小麦品種を用いて、同一条件で低温馴化させたときの細胞膜蛋白質組成変化を比較検討し、耐凍性と密接に関連した膜蛋白質を同定することを主目的とした。一般に細胞膜蛋白質の2次元電気泳動は可溶性蛋白質に比べて分離が極めて悪い。低温馴化過程で経時的に分離された細胞膜の蛋白質をSDS2次元電気泳動で分離する為の条件を検討した。方法としては、1)細胞膜を直接SDSで可溶化する、2)細胞膜をSDSで可溶化し蛋白質を冷アセトンで沈澱させ再びSDSで可溶化する、3)細胞膜をフェノ-ル処理し酢酸アンモニウム液で蛋白質を沈澱させSDSで可溶化することを試みた。 その結果、3)の方法が最も有効であることを見いだした。低温馴化過程で両小麦品種に共通に変化する膜蛋白質が認められるが、耐凍性の大きい秋まき小麦だけに特異的に変化する蛋白質が認められた。このうち15個の蛋白質は特異的に増加し、12個は特異的に減少した。細胞膜をTriton X-114で処理すると増加する蛋白質の大部分は可溶性画分に、減少する蛋白質は不溶性画分に回収され両者の性質が非常に異なっていることが明かとなった。この事を利用して、膜蛋白質のいくつかを可溶化精製して特異抗体を作出中である。また、in vivoラベル法とin vitro translationにより低温馴化過程におけるこれらの膜蛋白質の変動を調べる予定である。
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