研究概要 |
植物の凍結傷害は凍結脱水に伴う細胞膜の構造的・機能的損傷が直接原因と考えられている。細胞が凍結脱水に耐え得る能力、即ち耐凍性は細胞膜を構築している膜蛋白質と膜脂質の組成変化と密接に関連していると考えられる。これまで調べた数種の植物では、何れの植物でも耐凍性の増加に伴って細胞膜蛋白質の組成が大きく変化した。本研究は耐凍性に重要な役割を持つ細胞膜蛋白質を特定し、その性質を調べる事を目的としている。耐凍性の小さい春小麦(Chinese spring)と耐凍性の大きい冬小麦(Norstar)を用いて低温馴化過程に於ける細胞膜蛋白質の組成変化を詳しく検討した。その結果、地上部の茎葉組織では85,25,18kDaの蛋白質が耐凍性の大きい冬小麦だけに特異的に増加し、その増加の程度は耐凍性の変化と平行していた。また興味あることは、低温馴化過程で耐凍性が殆ど増加しない根ではこれらの細胞膜蛋白質は変化しない。したがって、これらの膜蛋白質は耐凍性に直接関わっていることを強く示唆するものと考えられる。キクイモ塊茎が秋から冬に耐凍性が増大する時、その細胞膜では冬小麦細胞膜と極めて類似した変化が見られ植物種間で共通している可能性が強く示唆される。耐凍性に大きな役割を特つと考えられるこれらの細胞膜蛋白質は、何れもTriton Xー100などの中性界面活性剤で容易に可溶化される共通な性質を有し、膜脂質との強い親和性などの膜内における存在様式も他の膜蛋白質とは異質なものであると推定される。現在これらの細胞膜蛋白質を可溶化精製し特異抗体を作成中で、これらの細胞膜蛋白質の低温順化に伴う更に精細な変化や機能、植物種間における共通性などに関する情報が得られるものと思う。以上の研究成果は、今後の植物の耐凍性機構の分子生物学的な解明に重要な指針を与えるものと思う。
|