研究概要 |
代表的なアオコ形成ラン藻であるMicrocystis属は分類学的に未解決な状態にあり、種の範囲についてすら明確にされていなかった。そこで、同属ラン藻の分類学的revisionの一環として、アイソザイムを遺伝標識とした分子分類学的解析を中心に、形態的形質(平均細胞サイズや群体の形状など)および生化学的形質(毒素組成)の解析を行った。その結果、下記のような成果が得られた。 研究計画に従い、日本各地の43の湖沼・ダム湖等からMicrocystis属ラン藻を収集し、計258系統の単離・培養株化に成功した。このうち活性の高い78系統について、4月の酵素遺伝子(IDH,6PGD,PGI,PGM)の遺伝子型を調査するとともに、3種の毒素(クミロキスチンーYR型、ーLR型、ーRR型)の定量を行った。得られたデ-タを統計的に解析した結果、以下の知見が得られた。 (1)調査した78株は29の遺伝子型に集約される。 (2)29の遺伝子型はさらに、M.wesenbergii(1遺伝子型・11株)、M.aeruginosa S1ーtype(11遺伝子型・17株)、M.a.S2ーtype(10遺伝子型・10株)、M.a.Lーtype(6遺伝子型・27株)、M.viridis(1遺伝子型・13株)の5型に分類される。 (3)このうち前2者(M.wesenbergiiおよびM.aeruginosa S1ーtype)は無毒だが、後3者(M.a.S2ーtype、M.a.LーtypeおよびM.viridis)は3種または1種のミクロキスチンを生成しており有毒である。 これらの研究成果から、(1)Microcystis属は少なくとも5つの分類群から成ること、(2)アイソザイムを遺伝標識とすることにより、従来の外部形態に基づく方法では因難だった種の同定(毒性の推定を含む)が、遺伝子型のレベルで確実に行える可能性が高いこと、の2点が示された。従って、本研究の所期の目的(Microcystis属の分類学的再検討およびアイソザイムによる同定法の開発)は、必要十分に達成された。
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