ホヤの血球細胞から抽出したバナジウム結合物質(バナ-ドビン)の生理学的役割

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01480026
• 研究機関: 富山大学
• 研究代表者: 道端 齊 富山大学, 理学部, 助教授 (00111740)
• キーワード: ホヤ / バナジウム / 遷移金属元素 / 結合物質 / 濃縮機構

研究概要

Ascidia科のホヤの血球細胞には150mMものバナジウムが含まれている。この濃度は海水に含まれているバナジウム濃度の400万倍に当たり、生理的な濃縮係数としては他に例を見ない。しかし、この特異な濃縮機構、さらには濃縮されたバナジウムの生理学的な役割については未だに大きな謎として残されている。
われわれはすでにホヤの血球細胞からバナジウムと結合する物質(バナ-ドビン)を抽出することに成功しているので、今年度はこの物質がバナジウムを濃縮しているホヤに共通のものであるのか否か、またそこに含まれるバナジウムの化学形について検討した。
バナ-ドビンの抽出は窒素気流中の還元環境下で、血球細胞のホモジネイトをゲル濾過し、原子吸光分光法でバナジウムを測定してバナ-ドビン分画を得た。次にバナ-ドビンの精製には陽イオン交換樹脂を用いた。その結果、バナ-ドビンは今回用いた5種のホヤ、Ascidia gemmata、A.ahodori、A.zara、Corella japonica、Ciona intestinalisの血球細胞からも抽出できることが判明し、先に報告したA.sydneiensis sameaとあわせてバナジウムを含有するホヤに普遍的な物質であると考えられる。また、今回初めてA.gemmataのバナ-ドビンから可視部の吸光を得た。この吸光スペクトルは無機の3価と4価のバナジウム化合物の吸光スペクトルに類似していたので、これからバナ-ドビンの吸光スペクトルのシミュレ-トを試みた。その結果、バナ-ドビンに45:55の比率で3価と4価のバナジウムが含まれているときスペクトルが一致することがわかった。
この他、密度勾配遠心法によって分離した高純度の細胞集団を用いて、vanadocyteが低pH細胞であることを証明し、低pH下でバナジウムの濃縮が行われていることを確認した。

研究成果

• [文献書誌] H.Michibata,Y.Iwata & J.Hirata: "Isolation of highly acidic and vanadium-containing blood cells from among several types of blood cells in Ascidiidae species by densitygradient centrifugation." Submitted to J.Exp.Zool.
• [文献書誌] J.Hirata & H.Michibata: "Valency of vanadium in the vanadocytes of Ascidia gemmata separated by density-gradient centrifugation." Submitted to J.Exp.Zool.
• [文献書誌] H.Michibata,H.Hirose,K.Sugiyama,Y.Ookubo & K.Kanamori: "Extraction of a vanadium-binding substance(vanadobin)from the blood cells of several ascidian species." Submitted to Biol.Bull.
• [文献書誌] H.Michibata,T.Uyama & J.Hirata: "Vanadium-containing blood cells(vanadocytes)show no fluorescence due to the tunichrome in the ascidian,Ascidia sydneiensis samea." Zool.Sci.,7:in press.(1990)
• [文献書誌] H.Michibata,& T.Uyama: "Extraction of vanadium-binding substance(vanadobin)from a subpopulation of signet ring cells newly identified as vanadocytes in ascidians." J.Exp.Zool.,in press.(1989)
• [文献書誌] H.Michibata: "New aspects of accumulation and reduction of vanadium ions in ascidian,based on concerted investigation from both a chemical and biological viewpoint." Zool.Sci.,. 6. 639-647 (1989)
• [文献書誌] H.Michibata & H.Sakurai: "“Vanadium in Ascidians"in“Vanadium in Biological Systems"Edit.by N.D.Chasteen in press." Kluwer Acad.Publ.,Dordrecht,Netherlands, (1990)
• [文献書誌] 道端齊: "バナ-ドビン(ホヤの血球細胞から抽出したバナジウム結合物質 松永是編「マリンバイオ-海洋バイオ新素材・新物質」" (株)シ-エムシ東京, 6 (1989)