ホヤ胚における筋肉細胞分化の分子メカニズムを、(1)分化決定因子の解析、(2)筋分化調節遺伝子の単離、(3)筋肉細胞特異的遺伝子群の解析をとおして研究した。 (1).分化決定因子の解析:分化決定因子を含むマイオプラズム(特定の卵細胞質部域)に対する抗体を得ていた。その一つは分子量約40KDaの単一のポリペプチドを認識する。抗体を利用してこの分子をコ-ドすると思われるcDNAを単離してその塩基配列を決定したところ、何種かの細胞骨格系タンパク質との類似性を示した。この分子は決定因子と密接に関係し、その正確な分配に関与しているらしい。一方、今後決定因子の解析のためにはマイオプラズムを量的に単離する必要がある。ユウレイボヤ卵を軽く遠心すると二つの卵片に分離し、片方の卵片に分化決定因子が濃縮されるらしい。現在この卵片の量的単離を試みている。 (2).筋分化調節遺伝子の単離:PCR法を駆使してホヤのMyoD様遺伝子の候補ジェノミッククロ-ンを得た。現在cDNAクロ-ンを単離し、この遺伝子の時間的空間的発現様式の解析を進めつつある。 (3).筋肉細胞特異的遺伝子群の解析:ミオシン重鎖および筋肉アクチンのcDNAクロ-ンを単離し、それを利用してこの両者の遺伝子がのう胚期から予定筋肉細胞に限って発現することを明らかにした。ミンシン重鎖については約6KbのcDNAの全塩基配列を決定した。また、筋肉アクチンHrMA4についてはその遺伝子を含むDNA断片を解析したところ、この遺伝子は二つのイントロンを持つこと、また約20KbのジェノミックDNA中に5つの筋肉アクチン遺伝子がクラスタ-をなしていることがわかった。またHrMA4遺伝子の5上流域には脊椎動物の筋肉アクチン遺伝子の発現調節に関わるとされているシス・エレメントが存在していた。
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