日長に対する依存度の高い水稲品種農林18号を用い、花成誘導反応における明暗識別の機序ならびに日長の逐日的変化の生態生理的意義について検討した。 1。薄暮光下における実験ーー自然薄暮期の光特性は晴天日の日没時には、400〜500Lx、FR/R比は1.0前後であるが、15〜20分後には約30Lxに低下し、FR/R比は1.2〜1.4にまで上昇した。そしてこの光条件と花成誘導のための計時的反応の始動とは略一致した。 2。人工光による模擬実験ーー1)花成誘導暗期の全反応過程は極めて弱い光で明暗識別が行われ、白色光では30Lx(6μmol/m^2/s)、また赤色光では0.21μmol/m^2/sは“明"として作用し花成を抑制した。2)しかし非誘導的暗期直前の明期短時間、硫酸銅溶液を透過し遠赤光を含まない白色光を照射すると、低光量でも花成を促進できなかったが、遠赤光を含む30Lxの光は暗黒と同程度の花成反応をもたらした。さらに照射時の電圧を低下し、FR/R比を増大させると花成は促進され、300LxでもFR/R比が2.0を越えると明らかな花成促進がみられた。 3。暗期の長さの逐日的な変化ーー個体齢の若い10葉期からの日長処理では暗期が延長変化する方が、短縮する場合より花成に有効であったが、加齢した13葉期以降の処理では全く逆となった。そしてこの傾向は日あたり増減変化が大きいほど増調された。 以上の結果から、日長反応における明暗識別は光の量のほか、質、とくに遠赤光の割合が日長信号として重要な役割を果たしていること、また自然日長下ではイネの加齢に伴う日長感受能の増大と日長の短縮方向への変化が同調するとき、花成に好都合な条件となることを明らかにした。
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