本研究は、ウイロイド感染細胞内で生起する一連の細胞変性過程を細胞病理学的に追跡し、感染特異的な微細構造を明らかにする目的で行なった。本年度は、ホップ矮化ウイロイド(HSVd)とリンゴさび果ウイロイド(ASSVa)を供試して、つぎの成果を得た。 1.HSVd感染ホップのルブリン腺毛(盃状毛)における細胞変性 盃状毛は、毬花の苞の表皮細胞から生じた板細胞の先端に形成される。これは分泌細胞が放射状に排列した一層の細胞層からなり、時間の経過に伴い盃状の形態をとるようになる。HSVdに感染した分泌細胞では、細胞壁の波状弯曲と、細胞質内の小器官の変性が認められ、かつ、完熟期に入っても、盃状毛の上面のクチクラ層が盛り上がらず、α酸の細胞外への分泌が低下していることが確認された。 2.ASSVd感染リンゴの果皮における細胞変性 リンゴの果皮は、クチクラ層、表皮細胞一層、下皮細胞数層からなる。さび果病に感染した印度リンゴでは、病斑部のクチクラ層が破れ、その直下の表皮と下皮細胞では波状に弯曲した細胞壁が目立つとともに、細胞間隙におけるペクチン物質の集積が抑えられ、扁平化した細胞が多数認められた。 3.これらの所見から、ウイロイド感染に伴う分泌細胞および果実細胞の細胞変性が細胞壁の波状弯曲を主とする一連の過程を経て生起することが明らかになった。
|