いもち病菌由来エリシタ-がイネプロトプラスト形質膜受容体に相互作用すると、膜イノシト-ルリン(IP)脂質の代謝回転が高進し、IP_3が生成した。IP_3に依存して宿主葉身細胞内のCa^<2+>'度が上昇し、Ca^<2+>ーカルモジュリン複合体の形成が予測された。さらに、未同定タンパク質のリン酸化が同時に開始し、膜情報内達系の効果反応として、ス-パ-オキシド(O_2)生成酵素系およびホスホリパ-ゼA_2が活性化された。生成したO_2は過敏感反応に、αーリノレン酸はリポキシゲナ-ゼなどの作用により不飽和ヒドロキシC_<18>脂肪酸となり、殺菌作用などに関与する。O_2に依存して内因性エチレン生成も高進した。エチレンと共にαーリノレン酸あるいは不飽和ヒドロキシC_<18>脂肪酸は細胞間の情報伝達系に係わることを示唆する実験結果が得られた。内因性エチレンの高進に応じて、中ー後期に発現する抵抗反応(リグニン生合成、不飽和ヒドロキシC_<18>脂肪酸の生合成およびファイトアレキシン生合成)に係わる律速酵素群(フェニルアラニン アンモニア-リア-ゼ、リポキシゲナ-ゼおよびペルオキシダ-ゼ、その他)が遺伝子の転写・翻訳過程を経由して、発現順序性を示して生成した。各々の酵素の細胞内濃度の増加によって抵抗反応の発現を制御していることが明らかになった。しかし、現在のところ、抵抗性遺伝子の活性化に関する分子生物学的機構の解明には、方法論的問題が多く、今後に残された重要な研究課証の一つである。上記の抵抗反応と類似した現象としてポリアミン類の初期動態が観察され、認識機構あるいは早期防御機構との関係が示唆さたが、立証するに至らなかったので、今後推進する必要がある。 以上、イネ葉身における生体防御機構を形造るカスケ-ドの大要が明らかになり、基本構想が得られたので、今後の研究の進展により、植物保護の新しい展開への応用が可能となるものと確信した。
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