カイコの血液中に多量に含まれる2種の貯蔵タンパク質、SP1(幼虫型雌タンパク質)とSP2(アリルフォリン)は存在状態によって高次構造の変化を示すことが明らかになった。SP1は6量体のタンパク質で分子量約50万であるが、これらが通常状態ではさらに集合して高重合体の形成を示した。この現象はカイコの系統によって異なり、高重合体を形成しない系統もある。両者を用いて、重合体の形成を調べたところ、高重合体は還元型グルタチオンの共存で抑制されることが明らかになった。グルタチオン添加による重合体抑制の機構を解析する目的で、カイコの2系統のSP1をグルタチオン添加状態で精製し、アミノ酸分析を行った。アミノ酸分析値は既報値と比べ、グリシン、グルタミン酸が多く、グルタチオンがSP1と結合していることが判明した。このことからSP1の遊離のSH還元基が関与していると予想されるが、重合体を形成しない系統のSP1においてもグルタチオンの結合がみられた。従って、特定のSH基の関与を中心に、今後解析する必要があると考えられた。一方、SP2についてはアルカリ条件下でのサブユニットへの解離について調査した。双翅目のアリルフォリンではすでに知られているが、鱗翅目のタバコスズメガではこのような現象は生じないと報告されていた。まず、分子量について既報値を再検討したところ、6量体で44万、サブユニットで7万5千と推定された。次に精製したSP2を中性からアルカリ性の各種pHの緩衝液を用いて電気泳動により分析した結果、中性においては6量体の単一のバンドを示したものが、pH8付近から低分子のバンドがみられるようになり、9付近では単量体と推定されるものまでの各種の低分子物への解離がみとめられた。一方、アルカリにおいた後、中性に戻した場合には、低分子から高分子への会合が生じ、サブユニットへの解離は可逆的であると考えられた。
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