Saccharomyces cerevisialを実験材料として、酵母プラスミドの部位特異的組換え系を応用した染色体工学技術を開発している。これまでの成果は以下の3項目である。 1)染色体に欠失と逆位の導入および非相同染色体間の組換え:クロ-ン化酵母DNAとTy因子のδ配列を用いて、染色体上のさまざまな位置にプラスミドの特異的組換え部位(RS)断片を挿入した。これらの挿入RS断片間で組換えを起し、URA3遺伝子座とRASI遺伝子座間、URA3ーHIS3間、URA3ーPHO80間、RASI-HIS3間および一組のδ配列間で、欠失、逆位あるいは非相同染色体間の組換えを効率よく起こすことに成功した。欠失が起こると予想されたPHO80ーHIS3間では成功しなかったが、これは第XV染色体のセントロメア近傍右腕にあるとされていたPHO80が、実際は左腕にあるためと判った。 2)組換え染色体の減数分裂に及ぼす影響:第V及び第XV染色体間での組換え型染色体を、URA3ーRASI間及びURA3ーHIS3間での組換えにより2種作製し、これらの株を四分子分析により調べた。正常染色体と組換え型染色体を持つヘテロ二倍体では、それらをホモに持つ二倍体に比べ、胞子の発芽が50%以下となり、不稔形質の付与が可能と示唆された。 3)外来DNAの標的部位挿入:一倍体細胞の染色体LEU2遺伝子座へRS断片を組込み、Rタンパク生産プラスミドを導入した細胞を作製した。この細胞にRS断片を持つYIp型プラスミド(約10kb)をRタンパク生産条件下で導入し、このプラスミドDNAのLEU2座への挿入頻度を検討した。これまでに、Rタンパクの効果が認められる結果を得たが、頻度が低く、さらに検討を進めている。より大きな分子量のDNAで実験を行うため、λファ-ジDNAにRS断片と遺伝子符号を組み込んだ約50kbのDNAを構築した。
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