ラット脳下垂体後葉の神経終末標本はトリプシン処理によって単離できた。電気刺激によって、いくつもの顆粒が典型的なエキソサイト-シス像を示して反応するのが観察できた。後葉神経終末のエキソサイト-シスの特徴は、顆粒に小さいものが多く、顆粒融合後の膜回収過程が速いことであった。これは、副腎髄質細胞におけるカテコ-ルアミンの分泌とやや違っていた点である。その他は両者、殆ど差の無いもので、神経終末におけるエキソサイト-シスの光学顕微鏡的証明は達成された。しかし、標本の作製は容易ではなっかった。このため、多数の例を厚めることはできず、膜電位固定法と組み合わせた細かい解析はできなかった。クロマフィン細胞における観察ははるかに容易であり、神経細胞型に分化させたときにできる神経終末端でのエキソサイト-シスは、強くそれと確信できるものであった。この神経終末端は隣の細胞に接着しシナプスと類似の構造を形成した。このような部位でのエキソサイト-シスも沢山観察することができ、多くの興味ある結果が得られた。特に、エキソサイト-シスの開始に関する教科書的な仮説が、いずれも否定される結果になった。エキソサイト-シスの開始機構については純粋に分子的なものに絞られた。PC12細胞をNGF処理して神経に分化させそのシナプスにおいてエキソサイト-シスを観察する試みは成功しなかった。しかし、この細胞では、電気刺激に応じて神経終末端から急速にフィロポディアが発生し、これが数分間に渡って成長してから消失するという新しい現象が発見できた。このような急速なフィロポディアの成長消失は、繰り返し刺激によってより容易に引き起こせた。これは神経成長端の成長方向の制御や、シナプスにおける可塑性を担っている基礎的な反応である可能性が高い。以上の様に複数の標本において、本研究の中心的な課題は達成され、かつ、新しい現象の発見がもたらされた。
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