神経終末におけるトランスミッタ-の放出については、開口分泌説と透出分泌説の2つがあり、その間には多くの論争があった。本研究では神経終末の開口分泌の様子を直接可視化してこの論争に決着をつけることを第一の目的とした。ラットの脳下垂体後葉をトリプシン処理して神経終末単離標本を作った。また、クロマフィン細胞やPC12細胞を培養し、細胞間に見かけ上シナプスに類似した構造を形成させた。これらの神経終末をノマルスキ-顕微鏡下におき、ガラス微小電極によって電気刺激を与え、CCD型ビデオカメラを通して1万5千倍の拡大下に観察した。いずれの標本においても直径0.2〜0.5ミクロンの大きさの顆粒がゆっくりと運動しているのが見られた。電気刺激を与えると終末内の顆粒が、多数弾けるような反応を示した。ディジタル画像処理による解析では、顆粒の明るさが突然ステップ状に変化し、続いて、ゆっくりと元の明るさに戻ることがわかった。この様子は、他の細胞やクロマフィン細胞の細胞体部において見られたエキソサイト-シスと、定性的には全く同じものであった。細胞体に見られる顆粒のエキソサイト-シスに比べて特徴的な点は、比較的小さな顆粒の反応が見られること、頻度が数十倍高いこと、明るさの変化が10msと非常に速いものが多いこと、であった。同じ反応は、65mMKClを含む溶液でも引き起こすことが出来た。反応は外液のCaイオン依存性であった。繰り返し刺激は単発刺激よりも強い効果を持ち、促通現象が見られた。長い繰り返し刺激に対する疲労が認められた。これらの結果は、顆粒の弾けるような変化が、分泌顆粒のエキソサイト-シス反応であることを示している。このように神経終末におけるエキソサイト-シスの光学顕微鏡による直視に成功したことによって、歴史的な論争にほぼ終止符が打たれ、本研究計画は当初の予想通りの目的を達することができた。
|