研究概要 |
1.アデノシンは脳細胞の興奮に応じて細胞外液中へ放出され、ニュ-ロン活動の修飾物質として働くと考えられている。外液中に適用したアデノシンは脳の多くの部位においてシナプス伝達を抑制する。本研究の目的は、このアデノシンの作用部位を素量解析法によって、検討することである。 2.テンジクネズミの海馬体の横断薄切片を作り、1個の顆粒細胞の活動電位と、それによって単シナプス性に発生する興奮性シナプス後電位(EPSP)をCA3野ニュ-ロンから記録した。 3.6個のニュ-ロンにおいて、対照時の単ーEPSP振幅は、1.3±0.5mVであった。またその変動係数は、0.90±0.12であった。10μMアデノシンの作用下では、ESPSの振幅は、57±19%まで低下し、その変動係数は52±42%だけ増加した。入力抵抗は対照時の41±5MΩからやや(16%)減少した。 4.EPSPの振幅分布は、パスカル分布によって記述できた。6個のニュ-ロンにおいて最尤法によって定めた平均素量振幅(q)と平均素量放出数(m)は、それぞれ平均0.58mVと2.4であった。10μMアデノシン作用下では、qはほとんど変らず(101±16%),mは51±13%はで減少した。 5.アデノシン適用後正常液にて洗滌を続けたところ、入力抵抗は3個ニュ-ロンにおいて対照値を回復した。しかしEPSP振幅は完全には回復しなかった。計測可能であった5個のニュ-ロンにおいて、mは正常値の81±28%まで回復した。 6.以上の結果から、アデノシンのシナプス伝達抑制作用は、ほぼ完全にその伝達物質放出低下作用によるという結論を得た。
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