(1)抑制性シナプス電流(IPSC)の記録:新生ラット脊髄から厚さ120μmのスライスを作製し、運動ニュ-ロンをノマルスキ-顕微鏡で直視のもとに、パッチ電極による膜電流のwhole-cell記録を行った。近傍の介在ニュ-ロンに先端約2μmの電極を密着させて、通電刺激してIPSCを誘発した。刺激強度の変化に対して、IPSCが全か無かの応答を示すことから、一個の介在ニュ-ロンのみが興奮することを確認のうえ、IPSCの素量解析を行った。(2)素量解析:灌流液のCaを減少、Mg濃度増加させると、IPSCの平均振幅は、減少し、刺激に対するfailureの頻度が増加した。灌流液にテトロドトキシンを加えて活動電位を遮断すると、介在ニュ-ロン刺激によるIPSCは誘発されなくなったが、自発性微小IPSC(mIPSC)が記録された。このmIPSCの振幅は、Ca濃度を著しく低下させた際のIPSCの平均振幅とほぼ一致した。先ず、IPSCがmIPSCを素量とする二項分布に従うと仮定して、IPSCの振幅ヒストグラムのfittingを行ったところ、外液Caを1/2、Mgを2倍にした条件下では、平均放出素量m=1.24、放出確率p=0.56で二項分布によく適合する結果が得られた。従ってこの条件下での放出可能部位はn=m/p=2.2となり、2-3箇所の放出部位から、高い確率で伝達物質が放出される状況が推察された。しかし、一方正常二価イオン濃度において、IPSCの平均振幅はmIPSCの振幅の5-10倍に及び、素量仮設に従えば最小限、5-10個の放出部位が必要とされる。また、正常液中では、IPSCの分布を二項分布に一致させることは困難であった。これらの結果は、中枢抑制性シナプスにおいては、伝達物質放出部位ごとの放出確率が異なることを示唆する。低Ca高Mg液中では、放出確率の低い部位は、脱落して、高確率放出部位のみが残存し、見かけ上二項分布に従ったものと推論される。
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