1.目的 本研究は発達脳視覚野の可塑性の制御メカニズムを明らかにするため、我々が最近脳切片標本で見い出した白質連続刺激後に生ずるシナプス伝達の長期増強を可塑性の指標として、NーメチルーDーアスパラギン酸(NMDA)型グルタミン酸受容体の機能的役割を調べた。また、NMDA受容体を介するシナプス後部へのCa^<2+>の流入が長期増強の形成に直接関与しているかどうかをCa^<2+>キレ-ト剤の細胞内注入によって明らかにしようとした。 2.方法 臨界期にある生後3ー12週齢の仔ネコ皮質視覚野から切片標本を作製し、刺激電極を白質に設置した。また、ガラス管微小電極を皮質浅層の細胞に刺入し、白質試験刺激に対する興奮性後シナプス電位(EPSP)の振幅、反転電位等、さらに膜の種々の電気的性質を観察後、白質に5Hzで30秒間連続刺激を与えその後生じるEPSP振幅の長期的増大(長期増強)を観察した。次に、NMDA受容体の選択的拮抗薬であるDー2ーaminoー5ーphosphonovaleric acid(APV)を灌流液に加えたときに、上記の長期増強が起こるかどうかを観察した。さらに、Ca^<2+>キレ-ト剤であるEGTAを細胞内に注入したときに長期増強が起きるかどうかを観察した。 3.結果 白質に5Hz、30秒の連続刺激を与えるとEPSP振幅の長期的増大が誘発された。この長期増強の誘発は灌流液へのAPV投与、あるいは記録中の細胞内へのEGTAの注入によって阻止された。 4.考察 NMDA型グルタミン酸受容体に共役したチャンネルを介するCa^<2+>のシナプス後部への流入がシナプス伝達の長期増強の誘発に必要であることが示唆された。
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