研究概要 |
プロスタグランジン生合成の律速酵素であるプロスタグランジンエンドパ-オキサイド合成酵素について、免疫組織化学的検討を行い、海馬では特に強い陽性所見を得ており、歯状回顆粒細胞やアンモン角の大型錐体細胞などの神経細胞のほぼ100%が陽性であった。ことに、CA3領域に強い陽性所見が得られ、この領域では、細胞体ばかりでなく、遠位の樹状突起に迄、陽性染色が見られた。また、大脳皮質でも、第一層(最表層)の神経細胞に陽性所見は少ないものの、第2〜6層の全層にわたり神経細胞に陽性所見が見られた。そこで、電気生理実験を開始し、モルモット海馬のスライスを用いて、歯状回を刺激しCA3に長期増強を起こす系を確立し、20μΜ迄の濃度のPGD_2,PGE_2,PGF2αが興奮性後シナプス電位およびテタヌス刺激による長期増強のいずれにも殆ど効果がないことが判明した。また、この際、内在性のPGを枯渇させるためにインドメサシンを前投与しても殆どPG類の添加効果が見られなかった。海馬スライスの作成方法、PGの投与法などについて検討を加えたが、この所見は変わらず、又、ポジティブコントロ-ルとして取ったノルジヒドログアイア-ル酸(リポキシゲナ-ゼ阻害剤)が海馬CA3で生じるシナプス長期増強を抑制するので、PG類が海馬CA3のシナプス増強の分子メカニズムに直接関与している可能性は少ないことが判明した。一方、テタヌス刺激により活性化されると考えられるホスホリパ-ゼA_2(PLA_2)活性を脳で調べたところ、μΜオ-ダ-のCa^<2+>により細胞質から細胞膜に移行する新種の酵素を発見した。また、脳マイクロダイアリシス法により、PGE_2の作用で、長期増強に重要な役割を果たすと考えられている神経伝達物質グルタミン酸の遊離が促進されることが判明した。以上の結果を統合的にまとめるためのシステム作りを行い、課題の事項について更に研究を進める。
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