研究概要 |
ラットの脊髄後根神経節細胞〜坐骨神経知覚繊維 及び脊髄前角細胞〜運動、繊維の実験系を用いて,軸索内細胞骨格蛋白の輸送と重合・脱重合動態の解析を行ない,以下のような結果を得た。 1.遅い軸索内輸送の速度は週齢の進行と共に段々遅くなる。4週齢ではダイナミック型と安定重合型は一体となって移動し,放射標識後の時間が経過しても二つのピ-クに分離しない。7週齢以降30週齢までは標識後の時間が経過すると,遅い成のピ-クから速い成分が分離してくるのが観察される。更に週齢の進んだ老齢ラットでは軸索の起始部に安定重合型に富む大きなピ-クが形成され,時間が経過しても殆ど移動が見られない。このピ-クからはダイナミック型が形成され遠位側へ移動するが,より若いラットで見られるような安定重合型への再変換はなく,量が段々少なくなることから徐々に分解がおこるものと推定される。 2.以上の観察から4週齢では脱重合型,ダイナミック型,及び安定重合型の間の相互変換が充分速く行なわれているのでこれらは一体となって移動しているが,成長と共に変換速度が遅くなるので標識後の時間経過に伴ってピ-クの分離がおこる。更に老齢になると相互変換の障害,特にダイナミック型から安定重合型への再変換が殆どおこらないために,軸索の遠位部は細胞体から機能的に切り離された状態となり,軸索の変性,繊維状構造物の異常蓄積,樹状突起からの異常発芽等がおこり,そしてこれらに続くニュ-ロンの細胞死がひきおこされると推定できる。 3.軸索が傷害を受けると軸索全体の細胞骨格は直ちにこれに対応してダイナミック型の割合を増加させ,局所での修復を開始すると同時に,輸送速度をはやめて修復材料をより速く現場に供給する。やや遅れて細胞体でのチュ-ブリン,アクチンの合成が増加し,加速された輸送により修復個所に大量に輸送され軸索の再生が完成する。
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