中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)はミトコンドリアのマトリックスに存在し、脂肪酸のβ酸化の最初の反応を触媒するβ酸化系の律速酵素である。本研究ではこの酵素の異常による先天性代謝異常患者の遺伝子治療の開発を最終目標として、その基礎的成績を得ることを目的としている。昨年度に引き続き本酵素の遺伝子を患者由来の線維芽細胞に導入し、本酵素の発現効率の高い方法の開発を行った。導入に用いた本酵素の遺伝子はこの研究で単離に成功し、塩基配列を決定したヒト胎盤由来のMCADcDNAであり、細胞は本酵素活性欠損患者から採取した線維芽細胞で、本酵素のタンパクが検出されない細胞および不活性なタンパクが合成される細胞の2種である。昨年度に用いた方法では活性を示す本酵素の発現が極めて僅かであったので、用いるベクタ-を含めて種々検討し、今年度は東京大学宮崎教授によって作成された発現ベクタ-、pCAGGSに挿入した構築体を作成した。細胞への遺伝子の導入には先に開発したNー(αートリメチルアンモニオアセチル)ージドデシルーDーグルタメ-トクロライドおよびジラウロイルホスファチジルコリンとジオレオイルホスファチジルエタノ-ルアミンを膜成分とするリポソ-ムに遺伝子を包埋する方法を採用した。発現の有無についてはウエスタンブロットおよび免疫組織学的装色によるタンパクの生成およびHPLCを用いる高感度の定量法による酵素活性の測定の面から検討した。その結果、本法による遺伝子導入により欠損患者由来の線維芽細胞において正常細胞で認められる活性の2倍程度の発現をもたらしうることが明らかとなった。また昨年と同様に、M期同調剤であるTNー16あるいはデメコルシンを遺伝子包埋リポソ-ムと同時に細胞培養時に添加することがこのベクタ-による遺伝子導入にも有効であることを認めたが、その効果はCOS細胞の場合程顕著ではなかった。
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