胸腺細胞における細胞接着分子発現のT細胞分化及び活性化における意義

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01480167
• 研究機関: 札幌医科大学
• 研究代表者: 上出 利光 札幌医科大学, 医学部, 助教授 (00160185)
• 研究分担者: 岩木 宏之 札幌医科大学, 医学部, 助手 (60203353) ; 松浦 晃洋 札幌医科大学, 医学部, 助手 (70157238)
• キーワード: 胸腺細胞 / 接着分子 / 細胞外基質

研究概要

生体内における胸腺細胞の増殖分化の調節機構について,細胞外基質及び接着分子の面から検討を加えた。胸腺組織に主に分布する細胞外基質は,フィブロネクチンであった。正常胸腺細胞中の約10%がフィブロネクチンと結合したが,他の細胞外基質,ラミニン,コラ-ゲン,ビトロネクチンとは結合しなかった。フィブロネクチンの細胞結合ドメインであるRGD配列を含む合成ペプチドを結合したアフィニティ-カラムを用いると,生化学的にも胸腺細胞膜上にはVLA(very late antigen)としての特徴を有するフィブロネクチン・レセプタ-(FNR)が存在することを明らかにした。FNRを有する胸腺細胞は形態学的にも大型のBlast細胞が多いばかりでなく,細胞周期解析を行うと,FNR陰性の細胞に比して有意にS期に入っている細胞が多かった。一般的に胸腺細胞の中で分化増殖能を有すると言われるCD4陰性CD8陰性のダブルネガティブ細胞もFNR陰性とFNR陽性に2分され,FNR陽性のダブルネガティブ細胞がより高率にS期に入っていることを明らかにした。これらの事実は細胞外基質の1つであるフィブロネクチンがそのレセプタ-を介して増殖の制御を行っていることが明らかとなった。さらに我々は胸腺細胞とフィブロネクチンの結合を阻害する8H3抗体を作製した。8H3抗体によって認識される抗原はFNRそのものではない。しかしながら8H3抗体で胸腺細胞を処理することにより著明な胸腺細胞の増殖を認めた。近年,T細胞抗原受容体(TcR)を介する抗原特異的シグナルが,FNRにより調節されているという報告もあり,我々は今後8H3抗原とTcRの関係を明らかにする予定である。本年度はこのためにもTcRと8H3抗原を強く発現するT細胞ハイブリド-マを樹立した。

研究成果

• [文献書誌] Shijubo,N.,Uede,T.,Nomura,N.and Kikuchi,K.: "Functional analysis of mononuclear cells infiltrating into tumors.Establishement of a new system to obtain functionally active tumorーinfiltrating cells." Jpn.J.Cancer Res.(GANN). 81. 28-34 (1990)
• [文献書誌] Kohda,H.,Sekiya,C.,Kanai,M.,Yoshida,Y.,Uede,T.,Kikuchi,K.and Namiki,M.: "Flow cytometric and functional analysis of mononuclear cells infiltrating into the liver in experimental autoimmune hepatitis." Clin.Exp.Immunol.82. 473-478 (1990)
• [文献書誌] Minamoto,S.,Mori,H.,Hatakeyama,M.,Kono,T.,Doi,T.,Ide,T.,Uede,T.and Taniguchi,T.: "Characterization of the heterodimeric complex of human ILー2 receptor αーβ chains reconstituted in a mouse fibloblastic cell line,L929." J.Immunol.145. 2177-2182 (1990)
• [文献書誌] Inoue,Y.,Shijubo,N.and Uede,T.: "Induction of killer cells from lymphocytes in pleural effusion of advanced lung cancer patients." Jpn.J.Cancer Res.(GANN). 81. 1012-1020 (1990)
• [文献書誌] Torimoto,Y.,Kinebuchi,M.,Matsuura,A.,Kikuchi,K.and Uede,T.: "A monoclonal antibody (8H3) that binds to rat T lineage cells and augment in vitro proliferative responses." J.Exp.Med.172. 1315-1323 (1990)
• [文献書誌] Nomura,N.,Uno,E.,Tamura,Y.,Suzuki,A.,Kikuchi,K.and Uede,T.: "Vascular endothelial cells capable of binding lympgocytes express R2ー1A6 antigen." Life Science Advances.