胸腺内T細胞分化発達の過程は、自己トレランス、多様性の出現、自己MMCの拘束性の獲得といったいわゆるT細胞抗原レセプタ-分子の発現と選択の過程であるだけでなく、それと協調して働く他の分子による抗原非特異的なT細胞の増殖分化活性化の一過程といえる。特に胸腺という一定の組識構築がこのようなT細胞分化成熟に必須であるという事実に鑑みて、胸腺リンパ球と胸腺上皮細胞あるいは細胞外マトリックスとの相互作用、接着が第一に重要なスラップであるとの視点にたって本研究を開始したのであるが、2つの大きな成果を得ることができた。1つは胸腺リンパ球と胸腺上皮細胞の接着を阻止する抗体を得たことで、これは世界に先がけたものである。もう1つは胸腺リンパ球のフィブロネクチンとの接着を阻止する8H3抗体を得たことである。8H3抗体はフィブロネクチンレセプタ-そのものではないこと、抗体単独でT細胞に増殖刺激が加わることなど接着分子だけでなく活性化分子としての機能も果している。両者の遺伝子クロ-ニングによる一次構造の決定は現在進行中で、特に8H3抗原は精製とペプチド配列を決定に成功しており、全構造の決定は時間の問題である。 以上のように胸腺細胞における接着分子の発現が、抗原特異性の獲得すなわちT細胞抗原レセプタ-の高発現に先立って生じており、それによる抗原非特異的増殖がT細胞の初期分化に重要であることを明らかにできたものと考える。
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