研究概要 |
寄生虫症の診断は基本的には虫卵もしくは虫体を見付けることであるが、特殊の感染状態を示す寄生虫では困難なことが多い。このような理由から免疫血清学的診断が実施されているが、粗抗原による診断では交差反応があり、確定診断は容易ではない。そこで粗抗原を精製する目的で種に特異的な単クロ-ン抗体(MoAbs)の作製を行った。作製開始当初は感染マウスから得られるMoAbs(感染系)が診断結果をより反映するのではないかとの考えで試みたが、一般にはこの免疫方法では種特異的なMoAbsを得ることが極めて困難であることを知った。そこで以後は各寄生虫の粗抗原を免疫したマウス(免疫系)を用いてMoAbsを作製した。今回作製されたMoAbsは日本住血吸虫の感染系4クロ-ン(GAO3,74D11,84133、10)と免疫系1クロ-ン(SJA111)、有棘顎口虫の免疫系3クロ-ン(Fsー3D11、SSー5H5、SSー6C4)、旋毛虫の感染系1クロ-ン(TSYー2)免疫系2クロ-ン(TY10、TY64)およびクル-ズトリパノソ-マの感染系1クロ-ン(TSLO)であった。このうち種持異的MoAbsはSJA111、FSー3b11、SSー5H5、SSー6C4、TY10およびTY64の7クロ-ンであった。これらの種持異的MoAbを用いて交差反応のない抗原の精製に取り組んでいるが、最終的にはワクチンの開発にも務めたいと考えている。なお感染系から得たMoAbsのうち、84B3は寄生虫抗原とは反応しないが、ヒツジ、キ、マウス、ヒトの神経組織と胃、およびヒツジとヤギの赤血球と反応する“heterーophile MoAb"であり、GAD3、1D、TSY2およびTSLOは種々の寄生虫のみならず正常マウスの組織とも反応する“polyspecific MoAbs"であった。これらのMoAbsは寄生虫症の診断には使用できないが、hostーparasite relationshipのmechanismを解明する上で良き手段になることが予想され、現在その方面からも検討している。
|