研究概要 |
腸管出血大腸菌の産生する2種類のVero毒素(VT1とVT2は)、物理化学的、免疫学的性状が全く異なるが、Vero細胞毒性やマウス致死活性などの生物学的性状が類似している。本毒素の強力な細胞毒性は蛋白合成阻害によりその作用機構は、真核細胞の60Sリボソ-ム亜粒子由来の28Sリボソ-ムRNAの5'末端から4324番目のアデニンを特異的に遊離させるRNA Nグリコシダ-ゼ活性に基づく。一方、植物由来の蛋白毒素であるリシンもその作用機構はVero毒素と全く同じである。本研究では、RNA N-グリコシダ-ゼ活性に重要なVT1の分子構造を明らかにすることを目的として、これらの毒素間のアミノ酸配列を比較し相同性のあるアミノ酸残基を部位特異的変異法にて他のアミノ酸残基に置換し、活性に影響を及ぼすアミノ酸残基の同定を試みた。VT1、VT2及びリシンのAサブユニットのアミノ酸配列を比較すると、VT1のN末端から51-55番目、167番目-171番目、203-207番目の3ケ所に非常にそ相同性の高い領域が存在した。これら3領域をリシンの3次構造と照らし合せてみると、立体構造上非常に近接した位置に存在していた。この事から、これら15残基のアミノ酸残基は、VT1のRNA N-グリコシダ-ゼ活性において極めて重要な役割を果していると考えられる。本毒素のような加水分解反応を触媒する酵素の活性中心として、カルボキシル基を側鎖に持つアミノ酸残基が知られている。そこで触媒部位の可能性のあるアミノ酸残基として、Asp^<53>とGlu^<167>を、基質である核酸と水素結合やイオン結合の可能性のあるアミノ酸残基としてArg^<170>、Trp^<203>、Arg^<205>→Thr^<250>を選び、単アミノ酸置換体を作成した。その結果、変異体の活性は、Glu^<167>→Gln^<167>とArg^<170>→Lue^<170>が約1,000倍、Trp^<203>→Leu^<203>が約100倍、Arg^<205>→Thr^<205>が約10倍低下した。これらの事からTrp^<203>、Arg^<205>、特にGlu^<167>、Arg^<170>がVTlの活性発現に重要な役割を果していることが明らかになった。
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