研究概要 |
レンサ球菌M蛋白は古くから抗貪食作用によりこの菌の病原性を発揮することが知られているが、我々はA群溶血性レンサ球菌3型の病原性株とそれに由来するM蛋白を欠く株とを用いて、この菌の表層での補体活性化反応を解析し、M蛋白は代替経路でのC3転換酵素形成を著しく阻害すること、又、古典経路ではC3転換酵素をそれ程阻害しないが、C5転換酵素活性を著しく阻害する事を見いだした。従って、M蛋白は、C3b形成の増幅回路を遮断し、更に、C5a形成を阻害する事により貪食細胞の誘引とこれら細胞表面の補体レセプタ-形成の正の調節を阻害する事により貪食作用を免れ、病原性を発揮する事を明らかにした。 大腸菌のR100プラスミドのtraT遺伝子産物は菌体外膜に存在する膜リポ蛋白で、菌の接合に際して表面排除に関与する事が知られているが、それ以外に菌に補体抵抗性を与える事が知られるようになった。この遺伝子の既知のDNA構造から、合成ペプチドTraT〔86ー99〕を作り、これに対する単クロン抗体(MoAb)を作製した。このMoAbは、変性TraT蛋白とのみ反応しintactなTraTとは反応しなかった。しかしこのMaAbをimmunoblottingによりTraTを追跡するのに用いて可溶性膜画分からTraTを部分精製し、TraTに対する単クロン抗体6種を作製した。これらのMoAbsは何れもnative TraTと反応し、生菌上のTraTとも反応した。これらMoAbsを用いてELISAを考案してTraTを追跡しイオン交換及びゲル濾過クロマトグラフィ-によるTraT精製法を確立した。精製TraTを補体溶血系に導入し、モルモット及びヒト補体成分各段階で阻害効果を検討した結果、TraTは、主としてC6反応段階を阻害し、C4,C5,Factor B段階をも僅かに阻害した。しかし、C5の分解やpreformed C5b6の反応は阻害しなっかった。TraTはC5b形成段階を阻害するか、この複合体の不活化を来すと考えられる。
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