研究概要 |
腸炎ビブリオは、わが国のみならず発展途上国を中心に最も頻度の高い下痢原因菌である。本菌の病原因子として、(1)毒素および(2)腸管内定着性の両面をとりあげた研究を展開中である。 1.毒素について 耐熱性溶血毒(TDH)が最も重要な病原因子であるので、構造と機能相関について詳細な解析を行った。その結果,(1)TDH類似毒素として前年度にTRHを見い出し報告したが,さらにTDH/Iと名付けた新しい毒素を見い出し,遺伝子をクロ-ニングし,全構造を明らかにした。また,(2)TRHの構造をはじめ心臓毒性など種々の生物活性を明らかにした。(3)TRHに対するモノクロ-ナル抗体を作成し,TDHと比較しながらTRHの抗原構造を明らかにした。(4)類縁下痢原因菌であるVibrio cholerae nonー01,V.mimicus,V.hollisaeのTDH/TRH類似遺伝子のクロ-ニングを行い,その相異点を明らかにした。また,これらの類縁毒素の物理化学的・免疫学的類似性を明らかにした。(5)V.hollisaeの産生するTDH類似毒素のアミノ酸一次配列と蛋白側から明らかにした。(6)TDH/TRHの腸管病原性へのかかわりを明らかにした。 2.定着について 腸炎ビブリオ生菌がヒト腸管に付着・定着する現象はすでに明らかにされているが、その役を担う物質レベルの追求は皆無である。われわれは、(1)線毛,(2)プロテア-ゼに着目してこの問題と取り組んでいる。線毛についてはいち早くその存在を見い出し報告した。この線毛のキチンへの付着促進作用を見い出したが、ヒト腸管への定着に関与するか否かは現在解析を続行中である。一方,プロテア-ゼについては、コレラ菌のそれとの比較を行い、両物質の相異点を明らかにした。
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