パラミクソウイルス膜融合蛋白の非活性型前駆体を特異的開裂により活性化する宿主プロテア-ゼを単離精製することが本年度計画の中心であった。ニワトリ胚からセンダイウイルス、ニュ-カッスル病ウイルスの他に、ミクソウイルスに属するヒトインフルエンザウイルスAの膜融合蛋白の、単一アルギニン開裂サイトを切るプロテア-ゼをハイドロキシアパタイトへの吸着と溶出、Mono Q FPLC、セファクリルS200ゲル濾過を主たる方法として用いて単離精製した。その結果、(1)本酵素は33kDと23kDのサブユニットから成る55kDのヘテロダイマ-のセリンプロテア-ゼであり、(2)活性基は33kD鎖にあり、23kD鎖はγカルボキシグルタミン酸をもつCa^<2+>結合ドメインを有することが明らかとなった。(3)両鎖のN端アミノ酸配列の結果、本酵素は、ビタミンK依存性のプロスロンビン族と高い相同性があり、とくにそのうちでも、血液凝固第10因子と酷似していた。実際にも、ニワトリ血漿から単離した第10因子との直接比較においても、両者は同一分子であることが示唆された。更に、(4)本酵素は、試験管内において、従来用いられてきたトリプシンと比べ、さらに高い効率と特異性をもって、ウイルス活性化反応を行うことか判明した。ウイルスの体内伝播と臓器向性の決定に膜融合蛋白質を開裂活性化する酵素が重要な鍵を握るとされて久しい。本研究によりはじめて、その一例が示されたことになる。今後、ヒトやマウスの上気道などの自然宿主における開裂活性化酵素が何であるかを決める必要がある。
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