昨年度の研究の結果、外来遺伝子発現ベクタ-としてのヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の可能性を確認した。今年度はさらに応用性を高めるために各種の検討を行いその結果、 1.SV40ウイルスの初期遺伝子プロモ-タ-を用いたときには、感染初期・中期では発現量はHCMV自身のタンパク合成に匹敵できる程度の多さであった。しかし感染後期になるとHCMV後期タンパクの発現量に比べて多くなく、HCMVの産生物によるネガティブなトランスアクティイングファクタ-の影響が示唆された。現在このファクタ-に関しての同定を行っている。判明すればそのファクタ-を産生しない温度変異株(tsミュ-タント)を親株として組換えを行えば感染後期にも発現量がさらに増加することが期待される。 2.TK遺伝子を組換えウイルスに導入して薬剤感受性のHCMVを作ろうとする試みに関しては、まだ結果が得られていない。TK遺伝子をHCMVのDNAと一緒にトランスフェクションして組換えウイルスを得ようとしたが、まったくプラ-クが生じまいという不思議な現象が起こる。TK遺伝子の発現がHCMVの増殖に有害であるかもしれない可能性が示唆されるので、これについて確認の実験を行っているが、新しい抗ウイルス剤の開発につながる可能性がある。 3.メタロチオネインのプロモ-タを付けたlacZ遺伝子を作製して組換ウイルスを作製した。重金属の添加による遺伝子発現の誘導を現在確認中である。 以上の結果から培養細胞における発現ベクタ-としてのヒトサイトメガロウイルスの可能性は大きいことが示唆された。
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