研究概要 |
エイズウィルス(HIVー1)の逆転写酵素を効率よく分取できるウィルス産生細胞を樹立するため、日本人血友病患者より11株のHIVー1株を分離した。これらHIVー1をヒトT細胞株あるいは単球系細胞株に感染させた。ウィルス産生量の多い細胞株としてMOLTー4/HIVー1〔GUNー4〕を得た。更にこの細胞をクロ-ニングして、より産生量の多いクロンを分離した。 また、遺伝子工学的な手法でHIVー1の逆転写酵素を大量に生産するため、分離したHIVー1〔GUNー1〕から、数種類のファ-ジクロンを得た。このクロンをヒトT細胞株にtransfectすると感染性のウィルスが得られたので、完全な長さのウィルス遺伝子がクロ-ニングできたと考えられる。逆転写酵素を遺伝子組み換えにより大量に発現できる系を現在開発中である。 逆転写酵素に対する抗体を検出する方法として、酵素の熱不活化を抑制する抗体(安定化抗体)を測定する方法を開発した。この方法と、従来の中和抗体を測定する方法と比較検討した。安定化抗体は、HIVー1の逆転写酵素に特異的に作用し、他のレトロウィルス(HTLVー1,HIVー2,ネズミ白血病ウィルス、ウシ白血病ウィルス)の逆転写酵素の熱不活化には影響を与えなかった。この安定化抗体の疫学的意義を解析するため病期の異なるHIVー1感染者の抗体価を測定した。HIVー1感染者の血清中の逆転写酵素に対する抗体は、中和法により、熱不活化を安定させる抗体を測定する方法のほうが感度が高かった。病期との関連では、中和抗体価は進行した患者に低い傾向があるが、安定化抗体価は余りその傾向が認められなかった。臨床デ-タとの相関では、ヘルパ-T細胞数の少ない患者は、安定化抗体価も低い傾向があった。症例数を増やし解析を継続したが今までの結果に統計的有意性があることが確められた。
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