研究概要 |
心不全患者では血中の心房性Na利尿ホルモン(ANP)が高値を示し,重症度に比例して上昇することが知られている。正常では血中ANPはα型として循環しているが,心不全状態での血中ANPの分子型は明らかではない。NYHA分類による心不全の重症度が異る患者より得られた血漿を用いてゲルろ過および逆相HPLCによりANPの分子型(α,β,γ)を解析した。血中ANPは軽症(I)では正常人と差がなかったが中〜重症(II〜IV)では重症度に比例して増加した。心不全が軽症(I〜II)に比べて中〜重症(III〜IV)でのβ型の占める割合が有意に増加した。同時に重症例ではγ型が出現したが,その占める割合は必ずしも重症度と相関しなかった。心不全の治療により症状の改善に平行してANPの血中レベルは低下したが,同時にβ型の占める割合も有意に減少した。不全心の心房中のANPの分子型は正常心と比べてγ型が占める割合が減少し,逆にα型やβ型の占める割合が増加していた。したがって心不全では心房でのANP生合成は亢進し,γ型からα型あるいはβ型へのプロセシングが亢進する結果,αーANPと共にβーANPが多量に血中へ分泌されているものと考えられる。βーANPはαーANPに比べて作用の発現が緩やかで長時間持続するという特徴から考えても心不全状態でのβーANPの産生,分泌の亢進は持続的な水やNa排泄の促進による合目的な心の代償機転といえる。また心不全の治療によるβーANPの減少は心不全の治療効果の判定に有用といえる。
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