研究概要 |
目的および方法:癌遺伝子の脱メチル化がヒト肝癌発生にどのように関与しているかを明らかにするため、本研究では、肝癌を合併しない慢性肝疾患組織、肝癌症例の肝癌組織と非癌部肝組織、コントロール肝組織を対象として、それらにおける三種の癌遺伝子 c-myc,c-ki-ras,c-Ha-rasのメチル化状態を比較検討した。肝癌を合併しない慢性肝疾患組織34例中、25例(73.5%)、非癌部肝組織34例中、29例(85.2%)、肝癌組織18例中13例(72.2%)において c-myc遺伝子の第2エクソンのCCGG部位の完全脱メチル化を認めた。一方、コントロール肝組織31例中3例においてのみ同CCGG部位の完全脱メチル化を認め、残りの28例に部分的脱メチル化を認めた。完全脱メチル化を認めた患者3例は、0,14,23歳の若年者であり、一方部分的脱メチル化を認めた患者28例は25歳から83歳であり、これは慢性肝疾患患者および肝癌患者とほぼ同様の年齢分布であった。また完全脱メチル化を有する頻度は、慢性活動性肝炎で肝癌を合併するか否かで明かな差を認めず、肝硬変でも同様であった。肝癌組織18例中7例(38.9%)にc-myc遺伝子第3エクソンの脱メチル化が生じており、慢性肝疾患組織、非癌部肝組織、コントロール肝組織においては脱メチル化が生じていなかった。肝癌組織13例(72.2%)において同じ症例の非癌部肝組織と比較してc-Ha-ras遺伝子の脱メチル化が生じていた。 これらの成績について飲酒歴との関連を検討した所、アルコール多飲者により脱メチル化の傾向がみられ、アルコール多飲が癌遺伝子の脱メチル化を介して発癌に促進的に働くことが推定された。
|