研究概要 |
平成2年度以降,従来のコレラトキシン,E.coliのLT毒素による分泌下痢メカニズムに加え,出血性下痢のメカニズムの解析をとくに溶血性尿毒素症候群を合併する出血性腸炎の原因毒素として近年注目されるE.coli0157のverotoxinを用いて研究対象に加えた。小腸上皮細胞内でのメディエ-タ-として昨年度よりCa^<++>を中心に検討してきたが,腸管局所の白血球やその活性酸素産生能および血管内皮細胞とのinteraction,さらには微小循環障害についても研究を進めた。ラット空腸ル-プを用い,分泌性および出血性下痢を惹起し細胞内メディエ-タ-の動きをみた成績では,コレラトキシンによる分泌はCa^<++>拮抗剤やカルモジュリンインヒビタ-にても抑制され、Aーkinase活性化のあとにCa^<++>を介したメカニズムが作動する可能性が示唆された。一方verotoxinも細胞内Ca^<++>を変化させる可能性が示唆された。即ち培養細胞内のCa^<++>濃度変化を螢光顕微鏡下に観察した成績ではverotoxinは白血球内のfreeCa^<++>を上昇させた。またverotoxinは極めて低濃度のPAF(platelet activating factor)の存在下に白血球の活性酸素産生能を著しく増加させた。ラット回腸部の生体顕微鏡下の観察により,Toxin投与後の腸管微小循環に変化がみられた。すなわちコレラトキシンにより細静脈血管系の拡張と血流速度の増加がみられ,FITCーBSAの血管透過性亢進がみられた。verotoxinにおいては細動静脈での血流低下,細静脈を中心とする白血球膠着現象にひきつづき、血流停止や出血所見がみられた。Ca^<++>拮抗剤やPAFの拮抗剤の前投与により,このような腸管微小循環系の変化は有意に抑制された。分泌性下痢に加え出血性下痢のおこる過程においては上皮細胞内だけでなく,白血球や血管内皮における細胞内メカニズムを考える必要が認識された。
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