研究概要 |
アルコ-ル性肝障害の発症における食事脂肪の質的な差異の影響を明らかにするため,過去2年間にわたって,動物性と植物性脂肪あるいは,多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)を豊富に含む魚脂を用いて実験してきた.その結果,アルコ-ル性肝障害の発症と進展には植物性脂肪や魚脂が増悪因子として働くことを明らかにした.その機序を明らかにするため,今年度は,牛脂とサフラワ-油を用いた慢性アルコ-ル実験を行い以下の成績を得た. (1)門脈血流に及ぼす影響をみるため,超音波トランジェント血流計による門脈本幹の血流量を測定し,午脂群に比べて,牛脂アルコ-ル群は34%の減少を認めたが,サフラワ-に比べて,サフラワ-アルコ-ル群では逆に10%の増加を示した. (2)肝線維化担当細胞である伊東細胞を各群について電顕的に観察し,細胞あたりの脂肪滴の占める面積比を算出したが,アルコ-ル群は食事脂肪の差に関係なく脂肪滴が減少した. (3)脂肪の種類の差によるアラキドン酸カスケ-ドを介するロイコトリエンの関与を考え,肝組織中ロイコトリエンを測定した.その結果,ロイコトリエンB4,C4はいずれもサフラワ-アルコ-ル群で最も有意な増加を示した.さらにロイコトリエンは,肝内リノ-ル酸・アラキドン酸,肝内過酸化脂質と有意な正の相関を認めた.さらに,Pー450活性とリノ-ル酸,アラキドン酸とも有意な正の相関を示した. 以上の成績より,植物脂肪がアルコ-ル性肝障害の増悪因子になる機序として,アラキドン酸カスケ-ドを介するロイコトリエンの増加が関与していることが明らかとなった.
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