研究概要 |
目的:肺気腫、肺線維症などの成人呼吸器疾患の発生に関わる加令と喫煙、粉塵などの慢性刺激の暴露とその時期の関与の解明を目的とした。方法:肺組織の抗酸化酵素系がヒトに類似した8週令の雄ハムスタ-を60週まで飼育(C60群)し、一部は10および46週後にそれぞれ14週間喫煙させ、S24群,S60群とした。またスパイクタイヤ粉塵16週間暴露群(D24群),同一期間粉塵とタバコ煙吸入群(SD24群)およびコントロ-ル群(C群)について、1)摘出肺PーV曲線、2)肺胞壁のLengthーTension関係、3)肺組織の形態計測および電顕所見、4)BAL液の細胞分析、5)Collagen,Elastin含量について検討した。結果:加令の効果ーPーV曲線上肺の弾性特性に有意差はなく、LーT曲線の分析より、加令により膠原線維、弾性線維ともに伸び難さを増したが、Resting Lengthは増加した。肺表面張力は加令により増加し、加令に伴う肺胞構築の変化と肺胞壁自体の弾性収縮力の低下が、肺表面張力の増加によって代償され、全肺の弾性収縮力は見かけ上正常に保たれた。喫煙と加令の効果:S60群では低肺気量でのCstが増加し、肺胞腔は拡大し原線維成分が伸び難さを増した。粉塵と喫煙の効果:若年令のD24群,SD24群ともに全肺PーV曲線では差がなく肺胞壁組織はD24群では弾性線維の質的変化、膠原線維量の増加によりSD24群では膠原線維の質的変化により伸び難さを増し、その特性はヒトの肺気腫の力学的特性に近似していた。D24群のMean Linear Intersept(MLI)は他群より有意に縮小した。粉塵暴露は、肺の線維性変化を、粉塵とタバコ煙暴露は気腫性変化を齎らすことが示唆された。まとめ:加令のみでも肺胞壁組織は気腫化の特性を示すが、肺サ-ファクタントの加令に伴う変化により肺表面張力が増加し、全肺の特性は見かけ上変化しない。肺の加令変化に喫煙が加わると気腫化を生じ、若年肺でも粉塵暴露は線維化を、喫煙が加わると気腫性病変へと進展する。
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