変性性神経疾患の特徴は特定のニュ-ロンのみが選択的に変性に陥るということであり、このことはそれぞれのニュ-ロンの分化あるいは遺伝子発現の選択性という点と密接に関連していると思われる。本研究はまず神経系の特定のニュ-ロン(たとえば運動ニュ-ロン)に特異的に発現している遺伝子を見い出しそれらの遺伝子が、特定のニュ-ロンの変性過程においてはその発現がどのように変化するかを捕らえようとするもである。本年度の研究において、ヒト剖検脳および脊髄から良質のメッセンジャ-RNAの抽出が可能かどうかについて十分な検討を加え、結論として通常の剖検で得られる脳あるいは脊髄の組織から良質のメッセンジャ-RNAを抽出する方法を確立した。さらにこのメッセンジャ-RNAから出発して後で述べるサブトラクションクロ-ニングに適した良質のcDNAライブラリ-を作製することに成功した。現在までに作製し終えたライブラリ-は、正常大脳、正常脊髄、アルツハイマ-病大脳である。既に、筋茎縮性側索硬化症の脊髄も入手しており、現在cDNAライブラリ-の作製を始めている。変性に陥った部位と正常の同一部位のcDNAライブラリ-間で、遺伝子発現の異っている遺伝子を同定単離しようというのがサブトラクションクロ-ニングの戦略であるが、この方法には、いろいろな方法論が可能であり、DNAプロ-ブを用いた場合RNAプロ-ブを用いた場合、溶液中あるいは固層系でのハイブリダイゼ-ションなどについて、十分な基礎的検討を行い、その方法論を確立した。さらにこの方法を実現させるために必要なcDNAライブラリ-を作製するためのベクタ-系についても準備を終え、上記のライブラリ-はこのベクタ-にのっとって作製されたものである。
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