研究概要 |
筋ジストロフィ-は、代表的な遺伝性筋萎縮症であるが単一の疾患ではなく、臨床経過・罹患筋の分布・遺伝形式の違い等から幾つかのタイプに分類される。このうち、最も頻度が高く(約6割を占める)予後不良な筋ジストロフィ-がデュシャンヌ型(DMD)であり。患児は11才頃に歩行不能に陥り、25才頃までに死亡する。近年の遺伝子工学技術の進歩により、今日まで長いあいだ病因解明への手掛かりすら全く無かったと言えるDMDの遺伝子が明らかにされたのは記憶に新しい(Kunkelら;1985)。ジストロフィンはDMD遺伝子がコ-ドする筋細胞骨格タンパク質であるが、本研究を通じて我々は世界に先駆けて、正常骨格筋心筋におけるジストロフィンの局在様式を明らかにした。またDMDでは陰性であるジストロフィンの免疫反応がその良性型であるベッカ-型筋ジストロフィ-(BMD)では不完全ながら筋表面膜に認められる事、DMD保因者の補助診断法としてジステロフィンの免疫細胞化学的検索が有用である事を報告して来た。さらに、臨床医学的立場からジストロフィン分子の欠損部分(またはドメイン)と臨床病型との対応のほか、これまで必ずしも容易では無かった、(1)DMDとBMDの鑑別、(2)BMDの予後の推定、(3)DMDと福山型筋ジストロフィ-との鑑別などが可能になる事を示した。 さまざまなジステロフィンテスト((1)multiplesーPCR法,(2)イムノブット法,(3)免疫細胞化学法等)の臨床診断への応用と問題点も整理し、分子遺伝学的診断技術の比較検討・評価を実施した。このうちジストロフィン遺伝子に関してはChamberlinとBeggsとのプライマ-(計36種類)を調製し、multiplex PCR解析を行い、とくに生検筋標本より直接、フェノ-ル/クロロフォルム抽出・エタノ-ル沈澱法,RNase処理によりDNAを調製した。これらの研究を通して、ジストロフィンテストを実施しない場合、いわゆる肢帯型筋ジストロフィ-孤発症例の中には男性の31%にBMDが,女性の12%にDMD保因者が含まれている事を明らかにした。かかる症例については、適切な遺伝相談の資料としてジストロフィンテストが不可欠であることになる。免疫細胞化学法についてもさらに研究を進めた結果、ジストロフィン分子上の異なるドメインを認識する複数の抗体を用いて一つの生検筋を検索し、false negativeを防止する事の重要性も指摘した。この間の研究成果については、日本神経学総会・アメリカ神経学会総会・世界神経筋学会等において発表してきた。
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