研究概要 |
Rapid ventricular pacingによるhibernating myocardiumの作成をこれまで約40頭について行った。それらのうち良好なデ-タの得られた16頭についてみると、左室peak dp/dtはペ-シング終了60分後に有意に改善し(1683±599→1920±544mmHg/sec,n=11,p<0.02)、左室収縮期圧も120分後に有意に上昇して(107±16→122±15mmHg,n=10,p<0.005)、ペ-シング中止後早期に収縮能が回復することが示唆された。ただし心室容積測定装置シグマ5システムを用いたコンダクタンス・カテ-テル法による心機能の測定では、Emaxの有意な改善が見られなかったが、これについてはn=1〜6と、例数が少ないことによる可能性がある。一方、左室拡張終期圧はペ-シング中止後7日して初めて有意な改善を認めたが(21±9→13±10mmHg,n=3,p<0.005)、左室peak negative dp/dt(n=1〜8)や左室等容弛緩期圧曲線の時定数T(n=1〜8)の改善を認めず、左室拡張能の回復には比較的時間がかかることが示唆された。以上よりhibernating myocardiumの回復過程では、まず収縮能が改善し、続いて拡張能が改善する可能性がある。1例で ^<31>P NMRスペクトロスコピ-によりペ-シング終了後の変化を3時間にわたってみたところ、phosphomonoesterは徐々に増加、無機リン酸は初めの1時間で著明に減少、phosphodiesterは1時間にわたり増加した後、減少した。Phosphocreatineは30〜90分にovershoot傾向を示しながら回復し、ATPは徐々に増加した。ペ-シング終了3時間後にHPLCで測定したphosphocreatineは正常、ATPは正常の約8割であった。この例では極めて軽度の虚血が短時間のうちに回復したわけであるが、rapid ventricular pacingに対する反応は個体によりかなり違いがあり、一律に250/分でペ-シングしても、早期に強度の心不全を起こすものから全く状態の変わらないものまであり、今後さらに、例数を重ねて検討する必要がある。
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