本年度は、主としてラット初代培養肝細胞系を用いた手法により、新生児・乳児期の生理的な胆汁うっ滞の成立機序について、さらに、この胆汁うっ滞と臨床疾患との関連について検討を加えた。 1.各年齢別(臍帯血、日齢1〜7、日齢18〜40、3か月〜13歳、成人)に採取した血清を、成熟ラット初代培養肝細胞系のmediumに添加し〔^3H〕チミジンのDNAへの取り込みを調べることにより、DNA合成活性に与える影響を検討した。 結果:5%に調整した血清のDNA合成活性は、成人血清に比べ、新生児血清を添加したmediumで高く、臍帯血、日齢1〜7、日齢18〜40の3種の血清添加と、成人血清との間で、5%の有意差を認めた。また、成人血清の場合は、血清濃度を上げた場合、血清濃度10〜15%で、増殖活性が横ばいとなったが、新生児血清を添加した場合は、20〜30%までDNA合成活性の上昇が認められた。 2.同様に、新生仔ラット初代培養肝細胞系のmediumに人乳を添加、〔^3H〕チミジンの取り込みを測定した。 結果:血清を添加した場合と同様、人乳は新生仔ラット肝細胞のDNA合成活性を強く促進した。母乳性遷延性黄疸の症例から得た母乳は、同一日齢の非黄疸症例の母乳よりDNA合成促進活性が有意に高かった。 1.2.の結果より、新生児血清、人乳には、肝細胞の増殖能を高める因子が存在することが判明した。一般に細胞の増殖能と分化能は相反する関係にあり、増殖能が高ければ、分化能は低いことが知られている。今回の結果から、増殖能の高い新生児期には、肝細胞が分化していく能力が低いことが推察され、新生児乳児期の生理的な胆汁うっ滞の一因をなしていると考えられた。
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