新生児、乳児期に生理的に存在する胆汁うっ滞について、その詳細な臨床経過を検討したことに加え、生理的胆汁うっ滞について乳児ビタミンK欠乏性出血症、母乳性遷延性黄疸、新生児肝炎症候群などの疾患の発症と、密接に関連していることをこれまでに明らかにしてきた。これらの臨床疾患はいずれも乳児期早期の胆汁うっ滞性疾患でありまた母乳栄養児に多く見られる疾患でもある。人乳自体がこれらの疾患の発生に直接、あるいはmicroagentを媒介として関与している可能性は少なくない。このことから肝細胞の増殖能に対する人乳の影響を、初代培養肝細胞系を用いた手法により、肝細胞の[3H]チミジンの取り込みを見ることにより検討し、人乳は新生仔ラット肝細胞のDNA合成活性を促進することも判明した。人乳に存在する肝細胞増殖刺激因子についてはhuman epidermal growth factor(hEGF)が報告されているが、RIAで測定した人乳中のhEGF濃度とDNA合成促進活性とのあいだには関連を認めず、抗hEGF抗体で人乳を中和後、培養肝細胞系に添加した場合、中和前の約70%のDNA合成促進活性が抑制されたが、活性は残存したことにより、hEGFとは異なる未知の活性物質が人乳中に存在することが明らかとなった。この物質はhEGFと相加的に働き、未熟肝細胞の反殖に強く関与していると考えられる。 今回の研究結果により、生理的胆汁うっ滞の詳細な病態、臨床疾患との関連が明らかになったが、特に母乳栄養と、生理的胆汁うっ滞との関連について、解明すべき点も残された。
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