研究概要 |
今年度はまずpreliminary studyとして、臨床・病理学的にアルツハイマ-型痴呆(ATD)と診断された3例(死亡時年齢48〜88歳、死後時間3〜13時間)と精神神経学的にも神経病理学的にも問題のない対照例6例(死亡時年齢34〜83歳、死後時間2〜20時間)を対象として、剖検時に-70℃に凍結保存された脳半球の前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の各皮質・白質からpunch outした組織について、鈴木らが開発した高感度ガングリオシド測定法(従来の薄層クロマトグラフィ-法に酵素免疫染色法を応用した方法)により、GM1、GD1a、GD1b、GT1bを測定した。その結果、1)対照群において、各ガングリオシド値は年齢および死後時間により差がないこと、2)ATD群と対照群との間で、いずれの部位でもGM1,GD1a,GD1b、GT1bに明らかな差はみられないこと、3)各部位におけるGM1,GD1a,GD1bGT1bの組成を見ると、GD1aが前頭葉皮質・白質で低下していることが示された。 新しい方法では、ATD脳のガングリオシドに目立った変化がみられなかったが、文献ではATD脳で低下するという報告が多いことから、次のstudyとして、ATD5例、対照例3例について、従来から使用されている薄層クロマトグラフィ-法を使用して、各脳葉皮質・白質における種々のガングリオシドを測定し再検討している。まだ充分なデ-タの解析はなされていないが、GM1を中心にガングリオシドの低下がATDのいくつかの部位で認められている。この点、および神経病理学的変化との関係については次回に報告する。 1方、免疫組織化学的研究では、抗GM1抗体により、ATD脳のhypertrophic astrocytesとある種の老人班が染め出されることが明らかになり、現在両者の関連を検討中である。また、抗GD1a抗体による剖検脳の染色も現在試行中であり、これをATD脳にも適用する予定である。
|