研究概要 |
エンドセリン(ETー)アイソペプチドのうちETー1およびETー3レセプタ-の性状とその情報伝達系を血管平滑筋細胞および内皮細胞を用いて検討した。ETー1の合成と分泌機構は血管内皮以外の種々の培養上皮細胞を用いて解析した。最後にヒトの血中でのETー1様免疫活性の変化を各種病態で測定し,同時に尿や髄液中での存在の有無も検索した。血管平滑筋にはETー1に特異的なレセプタ-が存在し,アフィニティラベリングで分子量が5万の単一蛋白であった。ETー1レセプタ-はETー2とは同じ親和性を示すが,ETー3やbigETー1とは僅かの結合を示すに過ぎない。ETー1レセプタ-はフォスファチジ-ルイノシト-ル(PI)代謝廻転を促進し,細胞内Ca^<2+>を上昇させて収縮を引き起こす。一方血管内皮にはETー3レセプタ-が存在し,ETー1との親和性は弱い。ETー3レセプタ-は百日咳毒素感受性GTP結合蛋白と共役して,PI応答を惹起し,細胞内Ca^<2+>を上昇させる。ETー3は内皮細胞でプロスタサイクリンや内皮由来弛緩因子(EDRF)の産生を促進する。以上の事実から,ETー1は平滑筋に直接作用して収縮を,ETー3は内皮を介して弛緩を引き起こし,両者は相互に血管ト-マスを調節しているものと考えられる。血管内皮以外,腎系球体メサンジウム細胞や尿細管細胞,上皮癌細胞などでETー1の遺伝子の発現とその産生と分泌が証明された。したがってETー1は血管作動因子としてよりも,多彩な細胞での増殖因子としてパラクリンあるいはオ-トクリンの機能を果している可能性が強い。最後にヒトの高血圧,慢性腎不全,血管炎,レイノ-症候群での血中ETー1は上昇しており,高血圧や血管障害の発症や進展機構におけるETー1の病態生理学的役割が考えられる。また血中以外に,尿中や髄液中にもETー1様免疫活性が存在し,特に腎炎では尿中ETー1排泄が増加していた。今後腎や脳におけるETー1の生理的役割の解明が待たれる。
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