甲状腺ホルモン核受容体へのT_3の移動と受容体へのT_3の結合後の受容体機能の役割を調べた。甲状腺ホルモン受容体へのT_3の移動には、細胞質甲状腺ホルモン結合蛋白(CTBP)受容機能の存在が必要であった。これは核内に存在し、比較的大きな蛋白である。この蛋白にはNADP依存性に活性化されたCTBPが結合する。しかも、この結合にはCTBPにT_3が結合していることが必要条件である。このため、細胞内に存在する大量のCTBPには異なった2つの作用のあることが明確になった。すなわち、1つは、NADPH依存性に活性化され核内受容機能へのCTBPの移行の抑制を示し、細胞質でのT_3の貯留に関与する。もう1つは、NADP依存性に活性化され、核受容体へCTBPがCTBP受容機能へ移動し、積極的にT_3を核受容体に輸送する。すなわち、CTBPが甲状腺ホルモン情報に対し、negativeとpositiveの両者の調節機能を有することが判明した。核受容体は、CTBP受容機能からT_3を受け取るが、CTBP受容機能とT_3、核受容体とT_3、それぞれの親和性がいずれも高く、ここにもT_3情報伝達の調節は行われている。一方、これとは別に我々は、核内に受容体を特異的に燐酸化する燐酸化酵素の分離に成功した。この燐酸化酵素による受容体の機能の変化はまだ不明である。Nativeな受容体のかなりが燐酸化されていること、また、これに対するphosphatase活性が存在することから、受容体燐酸化機構は、受容体によるgene expressionの調節の一部を担っているものと考えられる。 今後、受容機能を有する蛋白の精製とその構造の決定、燐酸化受容体とこの機能蛋白との関連を調べることにより、ホルモンの細胞内情報伝達機構がより明確になるものと推察される。
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