I.ヒト及びラットBNPの単離構造決定 1988年、ブタ脳より第2のナリトウム利尿ペプチドとして脳性ナリトウムペプチド(BNP)が単離同定され、ナトリウム利尿ペプチドファミリ-の存在が明らかになったが、ブタのBNPに対する抗体ではヒトやラットにBNP様免疫活性は検出されず、BNP構造における種属差の存在が示唆された。我々は、ラット心房とヒト心房組織よりラットBNPとヒトBNPを単離し、ラットBNPは45アミノ酸残基、ヒトBNPは32アミノ酸残基よりなることを証明した。ヒトとラットのBNPの構造決定により、BNP構造は環状構造部分の相同性は比較的保たれているものの、N端部構造とC端部構造は著しく異なっていることが明らかになった。 II.BNPの生合成、体内分布、分泌調節 RIAを用いてブタになるBNPの体内分布を検討すると、脳におけるBNP濃度はANP濃度より高く、また脳内分布が異なっていた。更に心臓には脳以上に高濃度のBNPが含まれており、心臓より分泌されていることが明らかになり、BNPは神経ペプチドとしてのみならが心臓ホルモンとしての意義を有することが明らかになった。 しかし、ラットのBNPの体内分布を検討すると、ブタとは対照的に脳内には検出されず、心臓に最も高濃度のBNPが認められた。更にNorカhern blot法や潅流実験を用いて検討すると、BNPの大部分は心室で生合成され、心室細胞にはほとんど貯蔵されずに分泌されていることを明らかになった。また、ヒトにおいてもBNPの主要な生合成の部位は心室であり、脳にはほとんど検出されなかった。 心室から分泌される心臓ホルモンとしてのBNPは、主に心房から分泌されるANPとは異なる性質を有しており、ヒトの血中BNPの正常基礎値はANPの約6分の1であるが、心不全、腎不全、本態性高血圧症、原発性アルドステロン症等では基礎値と比較し、ANP以上の血中BNP濃度の増加が起こること、特に重症心不全ではBNPの増加は著しく、数百倍に達することを明らかにした。また、急性心筋梗塞患者においても、血中BNPは発症後数時間以内に著しい増加を示す。また、この血中BNP濃度の上昇は、生合成の増加とともにBNPのクリアランスがANPと比較して緩徐であることによることを証明した。 III.ナリトウム利尿ペプチド受容体のリガンド選択性の解明 ナトリウム利尿ペプチドシステムは、少なくとも3種類の内因性ペプチドであるANP、BNP、CNPと3種類の受容体、ANPーA受容体、ANPーB受容体、C受容体よりなるが、これらの受容体のリガンド選択性は不明のままであった。既に述べたように、BNPにはその一次構造や生物活性に著しい種属差の存在することが知られていたので、ヒトとラットにおいて同種属のリガンドと受容体を用い、結合親和性とcyclic GMP産生能を指標にして、3種類の受容体のリガンド選択性を検討した。その結果、ANP受容体はANP>BNP>>CNP、ANPーB受容体はCNP>ANP>BNP、クリアランス受容体はANP>BNPの選択性を持つことを明らかにした。
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