昨年度、ヒトTPO遺伝子産物大量分離のための発現系および酵素活性部位決定のための発現系を確立した。酵素活性を発現するのに重要なヒスチジンを決定するためのin vitro mutagenesisに先立ち第10エクソンを欠く短いcDNAをvaccinia virusの系で発現させた。結果はWestern blot上蛋白は発現されるもののTPO活性は発現されなかった。それ故、立体構造の変化により第9エクソンのヒスチジンがdistal HisとしてHemeに結合できないという可能性は残るものの、第8と10エクソンに含まれるヒスチジンがそれぞれproximalとdistal HisとしてHemeとの結合に重要と考えられた。以後、抗TPO抗体定量キットの開発に専念した。まず組み換えTPOの免疫学的性状を多面的に検討したところ、native TPOとほぼ同様の性状を示した。国際標準血清を入手しIU/mlの単位で抗体価を表示できる様にしたのち、小児科領域の甲状腺関連疾患患者血清百数十検体につき検討した結果、マイクロゾ-ムテストとの相関も十分なものであった。即ち、抗サイログロブリン抗体価を考慮にいれない場合にはマイクロゾ-ムテストとの間に相関は見られないが、マイクロゾ-ムテスト100倍以下の検体に限ると有意の相関がみられた。当初の我々の目的に合致した結果であった。 従来の組み換えTPOは膜型であり、可溶型の方がより収量が上昇すると考えられた。それ故、cDNAの膜貫通部分を除去し、同じくCHO細胞の系で発現させることにも成功している。このTPOも免疫学的性状はnative TPOとほぼ同じで収率は膜型よりはるかに良く、臨床応用が期待できる。
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