アルファ2プラスミンインヒビタ-(α_2PI)欠損の2家系において、異常分子が産生されるが、細胞内輸送の障害により分泌されないため欠損症に至ることが、変異遺伝子のCOSー7細胞における実現実験によって示唆された。実際に肝細胞においても、産生された変異α_2PIの細胞内輸送障害が同様に存在することを確かめた。すなわち、変異α_2PIーNaraでは、その分子量が正常α_2PIより約30%大きいことから正常分子と容易に区別して観察できることを利用し、α_2PIーNara遺伝子を肝癌細胞株Hep G2に導入し発現実験を行い、α_2PIーNaraの産生を観察した。その結果、mRNAのレベルには正常と差が認められなかった。ELISA法によるα_2PI抗原量の測定では、細胞内では差がみられなかったが、培養上清中には、変異α_2PIは正常α_2PIの約10%しか存在しなかった。放射性Sメチオニンでパルス標識した後、時間を追って免疫沈降法とSDS電気泳動で標識α_2PIを追跡分析を行った。その結果、正常α_2PIは約2時間でほとんどすべてが細胞から培養液中に分泌されるが、変異α_2PIは、より長く8時間も細胞内に滞留して存在することが認められた。培養液中には、変異α_2PIにおくれて出現し、しかも正常の10%程度しか出現しなかった。細胞内変異α_2PIは正常α_2PIと同様にendoglycosidase Hに感受性を有していた。これらの結果により、産生された変異α_2PIは粗面小胞体内に送られるとともにhighーmannosetypeの糖鎖の付加をAsm残基に受けることは正常分子と同じであるが、その後、粗面小胞体からゴルジ装置へ送られ分泌に至る過程が障害され、その結果、変異α_2PIは大部分が細胞内にとどまり細胞内にて分解されてゆくものと結論された。肝細胞内における変異α_2PIの分泌輸送経路の障害が、日本の2家系における血漿α_2PIの欠損の主因であると考えられる。
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